稲作でも実現!広がる営農用太陽光

農地に太陽光発電設備を設置し、営農と発電事業の両立を図る営農用太陽光発電。2017年度は全国で400件ほど新設され、農家を中心に事業者が増えてきた。これまでは葉物の栽培が主流だったが、最近は稲作に太陽光発電を導入する動きが出てきた。

奈良県天理市で運送会社を経営しながら営農用太陽光発電を始めた鳥山和範さんは、「作業の不便性は特になく、発電量は計画通り1.4倍。米の生育も問題ない」と話す。静岡県袋井市の農家で、所有する水田に営農用太陽光発電を導入した藤城一英さんも、「(太陽光パネル設置前の)8割の収量を充分クリアできる」という。

農業収入に加えて売電収入も得られる営農用太陽光発電は、農業従事者の収入増に寄与し、後継者問題の解消にも繋がると期待されている。だが、前提として営農を継続しなければならない。

そもそも、食料自給率向上の観点から、農地の転用は原則認められていない。そんななか、営農用太陽光発電のために、太陽光パネルを設置する架台の基礎部分の転用が認められるようになったのは2013年3月からである。農林水産省は、営農の継続を条件に規制を緩和したのだ。

それゆえ、営農用太陽光発電を始める事業者は、主に3つの要件を守る必要がある。第一に、農業委員会から架台の基礎部分の転用許可を受けなければならない。第二に、太陽光発電設備を設置しても、地域平均の8割以上の収穫量が確保できることをあらかじめ証明し、設備を設置した後も毎年収穫量を報告しなければならない。第三に、農地の転用許可は3年間に限られるため、続ける場合は3年ごとに再申請しなければならない。

太陽光を設置しても稲は育つ

このように要件が厳しいため、パネルで光を遮っても生育への影響が小さい葉物の栽培に太陽光発電を導入する農家が多かったのだが、ここに来て、充分な光を必要とする稲作でも要件を満たし、営農用太陽光発電を始める事業者が出てきた。

奈良県天理市。運送会社を経営する鳥山さんは、会社を切り盛りする傍ら、3反の水田に太陽光発電設備を導入。奈良県田原町に本拠を構える電気工事会社のエグテックが建設を請け負った。鳥山さんの水田3ヵ所に、それぞれ発電容量49.9kWの太陽光発電設備を設置したのだが、この設備は特徴的だ。太陽光パネルを1本の支柱で支える特殊な架台で、大型農業機械による作業時は太陽光パネルを地上2.5mの高さで水平に固定できる。そして何よりも、太陽光パネルが太陽の光を追尾する特殊な機構が設けられているため、発電量が通常の設備より多くなるのだ。

エグテックの江口正司社長は追尾式架台の機能について、「光センサでリアルタイムに追尾し、1日に東、南、西へと方向を変える。曇りの時間が超過した場合や、一定以上の強風が吹いた場合には水平モードへ移行する」と語る。また、「(非追尾式と比べて)1.4~1.5倍の発電量を実現しており、計画通りの成果を出せた」としている。鳥山さんは、「収量には問題なく、例年より良かったほど」と話す。

10年前から運送業を営む傍ら農業に従事してきた鳥山さんは、農業の苦労も痛感しており、「僅か3人で本業の合間に農作業に取り組んでいるため、繁忙期には必死で作業を進めている」という。「地元の名産である『ヒノヒカリ』を育てることで地域に貢献できればよい」とも語る鳥山さんは、新たな営農用太陽光発電の申請も進めている。

綿密な設備設計の甲斐あって、米の収量を維持している農家もいる。静岡県袋井市で農業を営む藤城一英さんは2016年、水田に出力48kWの太陽光発電設備を導入した。太陽光パネルによって遮光される太陽光を24.6%にとどめ、常時日陰になる部分がないようパネルの並べ方を工夫した。さらに架台の支柱の配置は田植え機とコンバインが使用できる5m間隔にし、高さも3m確保したという。

藤城さんは、「既に2度米を収穫しているが、作物に障害を与えることはない」とし、「コンバインの操作に柱が少々邪魔だが、運転技術で補完できる」と自信を見せる。

藤城さんは、シイタケを栽培している農業ハウスの上部にも太陽光発電設備を設置。日光を70%ほど遮っても影響がないためだという。この取組みの成功をきっかけに、水田への太陽光発電の導入を決めたという。藤城さんは「米の収量は思ったほど落ちず、むしろ高温障害を防げる場合もある」と強調し、鳥山さんと同じく、農業継続のためさらなる営農用太陽光発電の導入を検討している。

農家の平均年齢は67歳。日本の農業の基盤である稲作で営農用太陽光発電が成功した意義は大きい。農業衰退に歯止めをかける最後の希望こそ、営農用太陽光発電なのではないだろうか。

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